嘘をついて生きていくこと〜『騙王』(秋目 人/メディアワークス文庫)〜

騙王 (メディアワークス文庫)

騙王 (メディアワークス文庫)

何もせずに朽ち果てるくらいなら、口先だけで手に入れてみせよう。金も力も愛も、そして王座さえも……。

 ローデン国の第二王子であるフィッツラルド。第一王子を後継者にと考える国王からは疎まれ、その第一王子からは頻繁に刺客を送られ、茨の日々を過ごしている。このままでは、漫然と死を待つだけだ……そう考えた彼は決意する。相手が誰であろうと、騙りつくそう――すべては生き抜くために。
 頭脳と口先で自らの運命を変えた、ある少年の物語。第17回電撃小説大賞4次選考作。

できるだけ嘘はつきたくないなぁと思って生きているわけですが、
いかんせんその場その場でつくろって嘘をついてしまうもので、
そのたびに自分ってしょーもなと思っていたりする私です。


しかしながら嘘をつき、人に騙って騙すことは難しいことだとも思うのです。
真実を知った上で、騙す相手を知り、嘘を突き通す覚悟を持って実行しなければいけない。
つまり「嘘」をつくということは「メタ」な立場に立ち相手を操作するということであり
実行するには観察力そして、何より頭の早さが必要になります。


本書の主人公 フィッツラルドは「嘘をつき、人を騙る=戯言遣いの王子」であり、
その嘘の遍歴がこの物語です。
内容紹介にあるとおりフィッツラルドは「騙らなければ生きていけない」存在です。
命を常に狙われ、美貌も人脈もなく、頼れるものは自分の頭脳、そして「語り=騙り」しかありません。


「騙る」ということは常に他人からも「騙られる」可能性あるということでもあります。
フィッツラルドの周りにいるのはクセモノばかりです。
1章から登場する高利貸しセドリック、兄の婚約者としてローデンの来る敵国の王女リズ
敵国を裏切って手下となったガゼル。
一筋縄ではいかない彼らをいかに騙り、その難局を切り抜けるのか。


フィッツラルドの騙りの物語は、相手を翻弄する痛快さがあります。
マジックがそうであるように、綺麗な嘘で相手を騙るその面白さを味わえる作品です。


第17回電撃小説大賞4次選考作とあるように
ライトノベルを意識して書かれていて
読みやすく、各キャラが立って書かれている点も魅力的です。
多くの人おすすめ出来る1冊。